白衣選びの視点 -機能性
抗菌性以外にも、医療現場によく見られるシーンに適応し、白衣の使い勝手をよくする機能性はあります。
「自分にとってはこれが必要」、「この業務のときはこれがあった方がよい」といった視点で白衣を選ぶのも1つの方法です。
1.春・夏の快適性のために
汗などの水分を素早く吸収し、しかも素早く気化する機能です。べたつきを抑え、さらりとした着心地を保ちます。
繊維の極細化や多孔化などにより、繊維が水分に接する面積を大きくする工夫がされています。
接触冷感素材とは、生地を触った時にひんやりと感じる素材です。
一般的な手法は熱伝導率の高い繊維を使うことで、身体が触れた瞬間に熱を生地側に素早く移動させることでひんやりした触感が得られます。
また、吸汗速乾繊維で水分を素早く吸収・蒸散して気化熱を放熱させる手法もあります。
近年は、生地に冷感成分を付着する加工をほどこし、溶解吸熱作用を利用するものもあります。
遮熱素材とUVカット素材では、紫外線や熱線を吸収もしくは拡散させる物質を繊維内部に織り込んで入れるというものです。
紫外線を遮蔽すればUVカット、赤外線を遮蔽すれば遮熱素材になります。
また、可視光線を防ぐことで透け防止素材とすることもできます。
2.秋冬の快適性のために
衣服やふとんの保温性は、風のように流れず静止した空気、「デッドエア」を内部に保つことでえられます。
静止した空気の熱伝導率は非常に低いので、体温などであたたまった空気が逃げないとあたたかさが保たれるのです。
繊維内部に空気層を作るために、中空糸などが用いられます。こうした繊維は、同時に衣服の軽量化にも役立ちます。
羊毛が湿ると発熱することは古くから知られていましたが、これは吸収された水分子が繊維の中で振動することで発熱する吸着熱でなされています。
吸汗速乾繊維と逆の原理ということになります。この原理を応用した、吸水性の高い合成繊維を用います。
ゴムが伸びたときに熱を発する原理を応用した合成繊維です。身体の動きにともなって生地が伸び縮みすることで発熱します。
熱が外に逃げにくい生地設計が工夫されています。
加熱されると遠赤外線を放射する化合物(珪酸ジルコニウム系セラミックスなど)や鉱石(ブラックシリカなど)を付け加えた合成繊維です。
遠赤外線は物体に当たると、その物体の分子を振動させて熱を発生させます。
遠赤外線の周波数は繊維や人間を形成する分子の振動周波数と一致しているため、照射された遠赤外線は吸収され、分子の振動を活発にします。
遠赤外線は人体からも放射されており、生地内部にアルミなどを付けて人体から発する遠赤外線を反射させて暖める方法もあります。
3.安全性のために
難燃剤を付着させた繊維で、火が着きにくく、着いてもすぐに消える性質を持ちます。難燃剤にはハロゲン系化合物などが使われます。
帯電しにくい親水性のある繊維です。疎水性の化学繊維に親水性のポリマーを織り込んで作り、このポリマーが空気中の水分を吸収して静電気を放出します。
静電気によって埃がついたり、衣服がまとわりついたりすることを低減できます。医療機器に対する静電気の悪影響を避けることができます。
手術中、医師は、血液や臓器のため赤くなった術野を長時間見つめ続けます。術野を見つめたあとに視線を外すと、赤の補色である緑色の残像が見えます。
これを「補色残像」といい、特に濃い色を長時間見つめたあとに、白い物を見たときに起こりやすく、視界をチラつかせます。
補色残像が生じると、目が慣れるまで手元がはっきりと見えないため、緊急を要する処置が迅速にできなかったり、
思わぬところを傷つけてしまったりといったミスに繋がりかねないわけです。
そのため、手術衣は、やや濃い青や緑のものが無難です。
4.簡単なお手入れのために
繊維に形状記憶機能のある樹脂を織り込んだものです。シワになりにくいか、シワがすぐに伸ばされやすくなります。
また、襟などの折り目もしっかり残ります。洗濯後、アイロンをかける必要がほとんどなくなります。
綿製品には、洗濯すると縮むという問題点があります。
これは、紡績時のタテ方向への引っ張りが洗濯時にゆるんだり、繊維がヨコ方向にふくらんでタテ方向の長さが減ったりして起こります。
こうした縮みを防止するため、樹脂などで処理する防縮加工がほどこされます。
汚れがつきにくく、ついた汚れも落としやすい繊維素材です。高分子や樹脂などで合成繊維に表面加工してつくります。
5.着心地のよさ・動きやすさのために
長時間着ていても気にならない、疲れない着心地がえられます。
ポリプロピレンのように水に浮くような比重の軽い繊維が用いられますが、ポリエステルなどで繊維を中空にしたり多孔化したりすることで、
見かけ上の比重を小さくした素材も多く開発されています。
繊維自体を中空にする方法と、羽毛のように極細繊維の層を作って軽量にする方法があります。
身体の動きをさまたげない、伸縮性に富んだ繊維素材です。
もともとスポーツウェアによく用いられるものでしたが、身体を動かす医療現場の仕事にも適していることから、メディカルウェアにも応用されています。
ポリウレタン繊維はそれ自体がゴムのように長く伸び、しっかり元にもどる繊維で、ゴムより強く、劣化もしにくい特徴を持っています。
ポリエステルやナイロンなどをより糸にしたものも用いられます。
ポリウレタンほど大きく伸び縮みしませんが、伸び縮みの大きさを容易に調整して作ることができます。
水を弾く性質を持った素材です。フッ素化合物など分子間引力の弱い加工剤を布面にコーティングし、水や油を弾く働きを持たせます。
加工剤を使わず、特殊加工を施した糸と生地構造で同じ働きができるノンコーティングのタイプもあります。
水滴を弾くハスの葉の表面構造を参考に、表面に微細な凹凸構造を持たせ、水滴との接触面積を減らし、水滴が生地表面を転がるようにしています。
6.環境のために
こんにち、環境への配慮はあらゆる事業に求められています。
メディカルウェアにも、リサイクル素材などを利用した地球にやさしい製品があらわれています。
グリーン購入法が適用され、割安で購入できるものもあります。
合成繊維製品を集めて洗浄、細かく裁断した後で化学的に分解し、繊維になる手前の原料物質の段階に戻して再利用します。
材料のままでリサイクルする方法です。古着などを布状、あるいはわた状までばらしたり、ほぐしたりして別の繊維製品として再利用します。
合成繊維100%の場合は、加熱して溶かし、プラスチックなどの成形品原料として利用する方法もあります。
ペットボトルはポリエステル繊維と同じ原料物質からつくられるので、細かく裁断した後で化学的に分解することで原料物質に戻し、
再利用することができます。
合成繊維の多くは石油化学製品を原料として作られます。
しかし、植物も油脂を持ってはいるわけで、この油脂に由来する物質を原料の一部または全部に使用することで、
石油を節約できる繊維製造の研究開発が進んでいます。バイオエタノールとちがって、非食用の植物から取った油脂も利用できます。
ポリエステル …ポリエステルの原料はテレフタル酸とエチレングリコールですが、このうちエチレングリコールを植物由来にします。
この場合、原料の30%ほどを植物由来にできます。すでにかなり多くのポリエステルがこの方法で生産されています。
また、100%植物由来のポリエステルも研究されており、技術的にはすでに可能になっています。商業生産へ向けた努力がなされています。
ナイロン …ナイロンについても植物由来原料への転換に向けた研究が進んでいます。
植物由来のアミノ酸、リジンを酵素反応により脱炭酸することでペンタン―1.5―ジアミンを製造し、これをジカルボン酸と重合することでナイロンが作られます。このナイロンは、石油化学由来のナイロン繊維と同じレベルの強度や耐熱性をそなえているばかりでなく、
吸放湿性があり肌触りも良いなどすぐれた特性も持っており、快適性に優れた衣料品への応用が期待できます。
土に埋めると微生物が分解し、自然に還る性質を生分解性と言います。「ポリ乳酸繊維」という繊維が代表的な素材です。
トウモロコシを原料に、乳酸菌による乳酸発酵を行って作った乳酸を重合してポリ乳酸とし、繊維にします。
使用後に廃棄しても土中や水中の微生物の栄養源として利用され、最終的には水と炭酸ガス(CO2)に分解されます。